※本ブログは米国時間2026年5月7日に公開されたA10本社ブログの日本語訳です。原文はこちらからご覧ください。
この記事の要点
- 現在広く利用されているRSAや楕円曲線暗号などの公開鍵暗号方式は、将来の量子コンピュータによって解読される可能性があるため、PQCへの早期対応が求められています。
- ACOS 7.0.3は、OpenSSL 3.5を使用し、SSL/TLSデータプレーンでハイブリッドKEMをサポートします。
- 従来の楕円曲線暗号と耐量子アルゴリズムを組み合わせ、両方の鍵交換を同時に実行することで、将来の量子コンピュータによる脅威に備えます。
- 新しいハードウェアを追加せずにPQCのテストを開始でき、既存環境との互換性を保ちながら段階的に導入できます。
ACOS 7.0.3でハイブリッドKEMをサポート
NIST(米国国立標準技術研究所)は2024年に初の耐量子計算機暗号(PQC)標準を策定しました。現在広く使われている暗号を解読できる規模の量子コンピュータが実用化されるまでには、まだ時間がかかると考えられています。しかし、現在のセキュリティ対策にも、こうした将来の脅威を見据えた対策が必要です。最も深刻なサイバー脅威の一つが、「Harvest Now, Decrypt Later(今収集し、後で解読する)」と呼ばれる攻撃シナリオです。これは、暗号化された通信データを現在収集・保存しておき、将来解読しようとするものです。現在の公開鍵暗号方式は、将来の量子コンピュータによって破られる可能性があります。データの長期的な機密性を確保するには、PQCやハイブリッド鍵交換への対応を今から進める必要があります。
こうした状況に対応するため、A10はNISTが標準化したPQCアルゴリズムを採用し、ハイブリッドPQCに対応したAdvanced Core Operating System (ACOS) 7.0.3を提供します。これにより、お客様は新しいハードウェアの登場やエコシステムの成熟を待つことなく、今すぐPQCへの移行に着手できます。
なぜ今PQCへの対応が必要なのか
従来の公開鍵暗号は、現在のコンピュータでは解くことが難しい数学的問題を安全性の基盤としています。しかし、量子コンピュータが実用化されると、こうした問題を短時間で解ける可能性があり、RSAや楕円曲線暗号といった現在広く利用されているアルゴリズムが長期的なリスクにさらされます。
PQCは、将来の量子コンピュータでも解読が困難なアルゴリズムを用いて、こうした脅威からデータを保護する暗号技術です。
A10は、実績のある暗号方式を一度に置き換えるのではなく、業界標準のハイブリッドKEM(鍵カプセル化メカニズム)方式を採用しています。これは、従来の暗号アルゴリズムと耐量子アルゴリズムを組み合わせ、両方の鍵交換を並行して実行する方式です。攻撃者がセッションを侵害するためには両方の鍵交換を破る必要があるため、移行期間中も高い安全性を確保できます。
SSL/TLSにおいて、A10は鍵交換の強化を重視しています。セッション全体の安全性は、最終的に鍵交換の強度に左右されるためです。鍵交換そのものが侵害されれば、いかに強力な暗号化や認証の仕組みを用いてもセッションを保護することはできません。そのため、ハイブリッドKEMは、量子コンピュータ時代に備えるための実用的かつ安全な第一歩となります。
ACOS 7.0.3におけるPQCへの対応方針
A10はACOS 7.0.3において、OpenSSL 3.5を使用し、SSL/TLSデータプレーンでのハイブリッドKEMをサポートします。
- 耐量子鍵交換:従来の暗号技術と耐量子アルゴリズムを組み合わせたハイブリッド方式を用いて暗号鍵を生成し、将来の量子コンピュータによる解読に備えます。
- 楕円曲線暗号(従来の暗号技術):現在広く利用されている、実績のある効率的な暗号方式です。ハイブリッドPQCでは、耐量子アルゴリズムと組み合わせることで、移行期における安全性と互換性を確保します。
- 対応するハイブリッド鍵交換アルゴリズム
- X25519 + ML‑KEM‑768
- secp256r1 + ML‑KEM‑768
- secp384r1 + ML‑KEM‑1024
| クライアントサイドSSL (ACOS 7.0.3) | サーバーサイドSSL (ACOS 7.0.3) |
|---|---|
| PQCはデフォルトで有効 | デュアルキー共有モデルにより、暗号方式を柔軟に変更できる設計(暗号アジリティ:Crypto-agility)を実現 |
暗号化の優先順位:
|
ハイブリッドKEMと、同じ楕円曲線を使用する従来方式の両方を設定 |
| 対応している中から、最も強力な暗号方式を自動的に選択 | バックエンドサーバーは、TLSハンドシェイク中にハイブリッド方式またはレガシー方式の鍵共有を選択 |
| 管理者は、SSL テンプレートの supported-group 設定を使用して動作を明示的に制御可能 | 追加のハンドシェイクメッセージが不要なため、通信性能を維持し、追加の1往復(RTT)の発生を回避 |
| 既存のクライアントへの影響を抑えながら、容易に運用可能 | PQCへの移行期間中、新旧のクライアント/サーバーが混在する環境での共存を実現 |
| インバウンドTLSに対して、PQCによる保護を提供 | 互換性を損なうことなく、リスクを管理しながら段階的にPQCを導入することが可能 |
これにより、新たなハードウェアを導入することなくPQCの採用が可能となり、お客様は以下を実現できます。
- PQCのテストと検証を直ちに開始
- PQCアルゴリズムの運用経験を蓄積
- 本番環境の安全性を維持しながら、更新されるNIST標準に準拠
変化を続けるPQCへの安全な備え
PQCへの対応は一度で完了するものではなく、継続的な取り組みです。アルゴリズムは進化し、標準規格も変化していきます。一部のアルゴリズムが将来、非推奨となることもあるでしょう。
A10の理念はシンプルです。
- ソフトウェアから始める
- ハイブリッド方式を採用する
- 暗号アジリティを維持する
ACOS 7.0.3でソフトウェアベースのPQCサポートが実現したことで、A10のお客様は、既存環境の運用を中断したり、将来について不確かな想定に頼ったりすることなく、今すぐ安心して「PQC」への取り組みを開始できます。
