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「Microsoft Azureを活用した快適なIT環境の実現」開催レポート -【3】日本マイクロソフト:クラウドコンピューティングの真価とハイブリッドクラウドの価値

小雨が降りしきる天候のなか、多くの方に参加いただいたA10ネットワークス主催の「Microsoft Azureを活用した快適なIT環境の実現」セミナー。オンプレ設備のクラウド移行を検討中のITインフラ担当者向けに、A10のソリューションとMicrosoft Azureを活用し、クラウドとオンプレミスを効率よく活用するための手法や勘所が披露された。協賛企業であるNECも含めた各社の講演内容について3回に渡りレポートする。

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【3】クラウドコンピューティングの真価とハイブリッドクラウドの価値

最後に日本マイクロソフト株式会社 クラウド&エンタープライズビジネス本部 プロダクトマネージャー 佐藤 壮一氏が登壇した。

日本マイクロソフト株式会社 クラウド&エンタープライズビジネス本部 プロダクトマネージャー 佐藤 壮一氏
日本マイクロソフト株式会社 佐藤 壮一氏

 Windows ServerやAzure、Azure Stackなど、マイクロソフトのクラウドインフラによるビジネス開発やマーケティングを手掛ける佐藤氏は、「企業の売上が1 Billion(およそ1100憶円)を超えるまでに要する時間は短くなる一方で、フォーチューン500に入る企業の寿命も短くなっている。大企業だから安泰だという世界が崩れてきている」と指摘し、ソフトウェアのパワーが強くなりグローバル化が進むなかで、従来のビジネスモデルをキープするのが難しい時代になっていると説明する。

 つまりクラウドやオンプレを議論する前に、最新テクノロジーを駆使してビジネスをどう変革していくのか、いわゆるDXの視点が重要だと語りかける。「クラウドに投資しているつもりでも、今まで通りのインフラをクラウドに付け替えただけでは、あまりメリットが得られないこともある」と佐藤氏。

 また、システムの変化という視点からみると、IT部門がキッティングしたPCで社内のサーバーにアクセスし、制御された端末から制御されたシステムにつなぎ、その規模が拡大すればLAN同士をWANで接続するといった、いわゆる「Mode1」「System of Record (SoR)」と呼ばれるものがこれまでの中心で、情報システム部門やSIerが管理してきた。一方、今後、新しい形のビジネスを作っていく柱となるものは、インターネット接続が前提で、LANのような狭いネットワークではなく、スマホや車、センサーなどのデバイスが5Gのような高速ネットワークで接続に来る、いわゆる「Mode2」「System of Engagement (SoE)」と呼ばれるものだ。

この変化における本質は、サーバーやクラウドといったインフラ側の視点ではなく、"どこからでも高速に接続してくる多種多様なデバイスが増えている"という点だと説明する。「あくまでクラウド、サーバー、AI、IoTなどは従属する要素。多種多様なデバイスに対応したサービスや価値を提供して、ビジネスを延伸する必要がある」と佐藤氏。その意味では、全てクラウドに移行することが正しいとは限らず、Mode1とMode2でもそれぞれレベルがあり、それらを把握した上で、クラウド化したいものを捉えないとメリットが発揮されないと指摘する。

ここでDXの現状について参加者に問いかけた佐藤氏だが、実際は進んでいない企業がほとんどだと言う。特にありがちなのは、DXをうたう事業部門と現実をうたうIT部門がぶつかる図式だ。Mode2を中心に新しいことを始めたい事業部門と、投資したものを時間をかけて回収してクローズするIT部門では、考え方が違うのは当然だろう。それでも、自分たちの状況を認識したうえで、連帯感を持つべきだと主張する。

そのためには、統合されたプラットフォームおよび、オンプレからクラウド、ネットワーク、ストレージまで全体感を持った製品やサービス、さらにそれらを理解した上での戦略が重要だと佐藤氏。「マイクロソフトであれば、既存環境として物理マシンや仮想基盤のベースのWindows Serverがあり、プライベートクラウドにはAzure Stack、そしてパブリッククラウドにはAzureがある。オンプレとクラウド双方を柔軟に使い分ける環境が手に入る」と説明する。

 これらの基盤の底上げとして、オンプレミスで役立つのがWindows ServerベースのHCI である Azure Stack HCI だ。「他社のHCIソリューションでは仮想化やHCIソフトウェアのライセンスなどが必要だが、Windows ServerのDatacenterエディションであればHyper-Vのライセンスも含まれており、パフォーマンスを上げながらコスト圧縮できる」とそのメリットを説明し、パフォーマンスの面でも他社を大きく引き離しているという。

 クラウドに関しては、手始めにIaaSの仮想マシンをAzureやAWSに展開する話が多く聞かれるが、より大きなコスト効果を期待して取り組むのであれば、ネットワークを見直すことから始めることも一案だと主張する。「Azure Virtual WANというサービスを利用すると、Azure側に仮想のハブを設置でき、そこに専用線やVPNをつなげることで、このハブを起点に各種サービスへ接続可能になる」と佐藤氏。セキュリティや企業内ネットワーク接続にかかる回線費用をAzureのバックボーンで代用することで、ネットワークインフラを最新化し、高い ROI も見込めるとアピールした。

 さらにクラウドを利用すべき理由として、クラウド事業者自身がデータセンターに投資している点を挙げる。データセンターには、最新ハードウェアや自社開発のソフトウェア、オープンソースのプラットフォームなど最新テクノロジーが取り込まれているといい「クラウドをデータセンターとして利用すると、利用しているコストは同じままでも、その背景でクラウドベンダーが投資を続けるため、価値が向上し続ける」と佐藤氏。そこまで考えたうえで、自前でデータセンターを持つのか、クラウドを利用するのかを考えるべきだという。

ただし、クラウド利用には、契約の担保が重要になってくる。Azureでは、主要なサービスをすべてSLAで担保しているという。SLAが不十分なクラウドプロバイダーも存在することを踏、ビジネス基盤としてクラウドを選択する際には、SLAの有無が判断材料になると力説する。

 では結果的にどのようにクラウド活用を進めていけばいいのだろうか。佐藤氏は「銀の弾丸的な特効薬はなく、マイクロソフト自身が環境をAzureに移行するなかでも、さまざまな生みの苦しみがあった。マイクロソフトの例では、捨てたものが30%ほど、Office 365といったSaaSに持っていったものが15%、そして段階的にPaaSやIaaSに移行したものが50%、クラウドに持っていけないものも5%ほどあった」と実例を披露した。

 自社のクラウド移行で得たのは、環境をクリーンナップする良い機会だったということ、選択肢をIaaSやPaaS、SaaSだけにするのはまだ早いということ、アプリケーションは適したステージにモデル化させた上で移行すること、という3つの点だ。「ぜひクラウドジャーニーの第一歩として、今後のビジネスをどう伸ばしていくのかという視点を考えていただきたい。コストを意識した短期的な視点ではなく、広い視野、長期的なIT戦略を持ちながら、オンプレとクラウド、双方をうまく使って欲しい」と最後に締めくくった。